新しい家電を買ってきました。
箱を開けて、本体を取り出して、電源を入れる。
とりあえず、使ってみます。
ところが、思ったように動かない。
ボタンを押しても反応しないし、設定画面には見慣れない言葉が並んでいる。
「なんだこれ、分かりにくいなあ」
そこでようやく、説明書を取り出します。
最初から読めばよかっただけの話です。
でも、ちょっと待ってください。
そもそも、説明書って読まなきゃいけないものなんでしょうか?
読まない人が悪い、という話。
仕事でも日常生活でも、「説明書をちゃんと読んでください」と言われることがあります。
確かに、その通りです。
使い方が書いてあるのだから、読めばいい。
ただ、世の中には説明書を読まずに使えるものも、たくさんあります。
例えば、ハサミ。
初めて見る形のものでも、だいたいどこを持って、どう使うか分かります。
ドアノブもそうです。握って回す、あるいは押し下げる。特別な説明がなくても、なんとなく操作できます。
もちろん、これまでの経験から使い方を学んでいるという面もあるでしょう。
それでも、道具の形や構造そのものが、使い方を教えてくれているわけです。
だったら、説明書を読まない人を責める前に、説明しなくても分かる方法はないのかと考えてみてもよさそうです。
ボタンが多いと、ちょっと怖い。
テレビのリモコンを見てみます。
電源、音量、チャンネル。ここまでは分かります。
でも、その周りには、いろいろなボタンが並んでいます。
色のついたボタン、見慣れない記号、略語で書かれた機能。
全部使いこなしている人は、どのくらいいるのでしょう。
もちろん、多機能なテレビには、それだけ多くの操作が必要なのかもしれません。
ただ、毎日使うボタンは、案外限られている気もします。
だったら、普段使う機能だけを表に出して、それ以外は必要なときに呼び出せるようにしてもいい。
実際、そういう考え方で作られた製品もあります。
とはいえ、ボタンを減らせば何でも使いやすくなるわけではありません。
今度は、ひとつのボタンに複数の役割を持たせたり、メニューを何階層もたどったりする必要が出てきます。
それも面倒です。
分かりやすさは、単純に数を減らせば実現するものでもない。
このあたり、なかなか難しいところです。
説明する前に、間違えにくくする。
例えば、USBケーブル。
USB Type-Cは、上下の向きを気にせず差し込めます。
以前のUSB端子では、向きが合わず、ひっくり返してみたらやっぱり違っていて、
また戻す……なんて経験もありました。
あれは何だったんでしょう(笑)。
Type-Cなら、そもそも向きを説明する必要がありません。
これは「説明が分かりやすくなった」のではなく、「説明する必要が減った」ということです。
こういう発想は、いろいろなところで使えそうです。
お店の入口で「こちらからお入りください」と大きく書く前に、自然と入口が分かるようにできないか?
申込フォームで入力方法を長々と説明する前に、迷わず入力できる形にできないか?
施設の案内表示を増やす前に、行き先が見通せる配置にできないか?
説明を上手にすることも大切ですが、その前に、説明が必要になる原因を減らせるかもしれません。
説明書が必要なことも、もちろんある。
ここまで書くと、説明書なんて不要だと言っているようですが、そんなことはありません。
安全に関わることや、初めて使う機械の操作、複雑な設定など、きちんと説明を読むべき場面はあります。
直感的に使えそうだからといって、勝手に操作していいものばかりではありません。
それに、使い慣れた人には簡単でも、初めて触る人には難しいこともあります。
「見れば分かるでしょ」という思い込みも危険です。
だから、説明書をなくすのではなく、役割を分けて考える。
普段の操作は、できるだけ迷わず使えるようにする。
安全上の注意や細かい設定は、必要なときに確認できるようにする。
使い始める前に絶対に知っておくべきことは、確実に伝わるようにする。
すべてを同じ重さで説明しなくてもいいのではないでしょうか。
読まれる説明と、読まれない説明。
ところで、説明書は内容だけでなく、見せ方も大切です。
小さな文字がびっしり並んだ説明書を渡されると、それだけで読む気が失せてしまうことがあります。
一方、図がひとつあるだけで、すぐ理解できることもあります。
長い文章より、実際に操作している様子を見た方が早い場合もあるでしょう。
紙、動画、図解、実演。
説明の方法にも、いろいろあります。
ただし、動画なら何でも分かりやすいわけではありません。
知りたい部分だけ確認したいのに、毎回最初から再生しなければならないのは、ちょっと面倒です。
紙なら必要なページを開いて、机に置いたまま作業できます。
結局、どの方法がいいかは、何を説明するのか、どんな場面で使うのかによって変わります。
そもそも、説明書を読まないのは誰のせい?
使う人が悪いのか。
作る人が悪いのか。
おそらく、どちらか一方の問題ではないのでしょう。
説明を読まなければ危険なものは、ちゃんと読む必要があります。
一方で、説明しなくても分かるように作れるなら、そうした方が使う人は楽になります。
道具でも、Webサイトでも、お店の案内でも。
「どう説明するか」の前に、「そもそも説明が必要なのか」を考えてみる。
そんな順番もあっていいと思います。
もっとも、こんなことを書いている私自身、新しい道具を買うと、まず触ってみたくなるタイプです。
あれこれ試して、うまく動かず、ようやく説明書を開く。
そして、最初のページに書いてあるわけです。
「ご使用前に必ずお読みください」
……はい。おっしゃる通りです。

